広報・資料 報告書・資料



第4章  他の援助国・国際機関の援助動向



4.2 主要ドナー国・国際機関の動向

(1)世銀グループ

世銀はバングラデシュ国に対する二国間および多国間援助機関の中で、最大の援助供与を行っている援助機関である。過去の世銀の対バングラデシュ国援助は、1980年代前半までは食糧自給の達成を目標とした農業分野への支援(特に食糧増産支援)、人口増加抑制のための人口・家族計画の支援を行っていたが、1980年代後半はエネルギーの輸入依存度の減少を目的とした石油・ガス開発を中心とするエネルギー分野への支援へと移行した。人口・家族計画、プライマリ・ヘスルケア、初等教育および女子教育も重点分野であった。また民間セクター育成や関税、価格、金利などの各種規制緩和なども進めた。1990年代以降は、農業分野、社会インフラ、エネルギー分野の比重が低減し、運輸、工業、金融などの各分野へ重点分野が移行している。1972年から2000年までの間にバングラデシュ国に供与された世銀融資は170案件、累計額で約9,600百万ドルに上っている。以下の図4-2-1はセクター別の融資配分を示している。

図4-2-1 セクター別の世銀融資実績(1972~1998年)

図4-2-1 セクター別の世銀融資実績(1972~1998年)
出典:世銀


現行の世銀の国別援助戦略(2001~2003年)では、民間部門主導型の経済発展による貧困削減を援助目標とし、そのための重点戦略として以下を掲げている。

(1) 迅速かつ持続的な経済成長を達成するためのマクロ経済管理の支援
(2) 成長のエンジンとなる競争力のある民間部門の育成
(3) 公共部門の運営強化と公共サービスの改善
(4) 農業と非農業部門の連携強化による農業部門の成長と農村開発の促進
(5) 教育、保健、栄養、人口に係る長期的ビジョンに立った迅速かつ公正な人的資源開発の促進


そして横断的な課題として、公的部門および事業実施機関の実施能力強化、ガバナンス、ジェンダーおよびエンパワメント、環境保護などを挙げ、上記の優先施策を実施する上で必須の課題として同時に取組むとしている。

特に近年はバングラデシュの開発を進める上で大きな障害となっている、公的部門および事業実施機関の実施能力、制度改革、ガバナンスの問題など、よりセクター全体に共通する制度・政治的諸問題への関与の比重が大きくなっている。従来、世銀ではコンディショナリティーを通じた業績連動型融資を適用し、援助プログラムと政策改善とを密接に関連させながら実施能力改善、各種制度改革、およびガバナンスの改善を支援する手法を取っているが、この方針に変わりはない。また過去の経験の反省から、個々のプロジェクトおよび他ドナーと整合性の取れた、効果的かつ効率性の高い援助を行うために、セクターワイド・アプローチを推し進めている。

さらに世銀はバングラデシュ開発フォーラム、およびLCG(Local Cosulting Group)会合と呼ばれる国際機関や主要二国間ドナーをメンバーとするバングラデシュ国内に設けられたドナー会合を主導し、他ドナーとの援助政策の調整とバングラデシュ国への政策提言を行っている。NGOとのパートナーシップを通じた援助にも積極的である。現在、バングラデシュ国は世銀の協力のもと、PRSPの最終取り纏めを進めており、世銀はバングラデシュ国の今後の開発政策に対して主導的に関与している。

表4-2-1 世界銀行の重点分野におけるプロジェクト例

ドナー 世界銀行(World bank)
現行の国別援助計画 Country Assistance Strategy(2001-2003)
援助の上位目標 民間部門主導型経済発展による貧困削減
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
マクロ経済、農業・農村開発、人口・保健・栄養、教育、人的資源開発、民間部門開発、組織開発、ガバナンス、ジェンダー、エンパワメント、環境保護
予算規模 1,400百万ドル(2001-2003の3年間)
セクター別予算配分 運輸28%、保健・人口・栄養12%、農業10%、環境6%、エネルギー6%、金融5%、教育4%、上下水道4%、都市開発2%、マルチセクター1%(1998年実行額をベースに算出)
プロジェクト例
(実施中または計画)
・Health and population program project(保健・人口)
・National nutrition project(栄養)
・Primary eduction development project(初等教育)
・Costal embankment rehabilitation project(農業)
・Private sector inflastruture development project(電力・エネルギー)
・Road rehabilitation and maintenenace project(運輸)
・Dhaka water supply project 04(上水)
・Arsenic mitigation-water supply project(上水・衛生)
・Municipal service project(環境)
・Exort deiversification project(民間部門開発)
・Poverty alliviation microfinance project 02(マイクロファイナンス)
・Financial institutions development project(金融)
・Legal and judicical capacity building project(組織・制度改革)


(2)アジア開発銀行(ADB)

ADBは世銀に次ぐ2番目のトップドナーである。1970年代のADBの対バングラデシュ国援助は農産品加工業を含む農業分野への支援が中心であったが、1980年代後半から90年代にかけて貧困削減に援助の軸足を移し始めており、その結果、貧困緩和に直接的な効果が期待できる農村電化、農村道路などの地方インフラ、および教育、保健、人口、マイクロクレジットなどの分野へと融資の比重が高まっている。1972年から1999年までの間の対バングラデシュ国ADB融資は、累計で137案件、5,915百万ドルであった。以下の図4-2-2はセクター別の融資配分を示している。

図4-2-2 セクター別のADB融資実績 (1972~1999年)

図4-2-2 セクター別のADB融資実績 (1972~1999年)
出典:ADB


現行のADBの国別援助計画(2001~2003年)では、貧困削減を長期目標とし、そのための中期的重点戦略として以下を掲げている。

(1)民間部門主導による迅速な経済成長の促進
(2)貧困層へのより良い開発機会の提供
(3)人的資源開発の促進
(4)環境改善および環境保護の促進

(1)に関してはインフラの整備と金融制度の改善、ADBによる公的部門に対するオペレーションや地域間協力を通じての民間活動の支援、(2)については地方道路、小規模灌漑、洪水防止、マイクロファイナンスなどによる農村・地方開発、(3)に関しては、プライマリ・ヘルスケア、初等・中等教育、ノンフォーマル教育への支援、女性に対する公平な社会サービスの提供、(4)については環境計画および管理、法制度整備のための実施能力強化などを進めるとしている。

ADBは2000年4月にバングラデシュ国政府との間で貧困削減に係るパートナーシップ協定(PAPR: Partnership Agreement on Poverty Reduction)を締結した。これは両者の間で貧困削減のための具体的な中長期目標2を設定し、今後10年間のADBの対バングラデシュ国援助は中長期目標を基に策定されることを同意したものである。さらにこれまでの支援対象セクターが多岐にわたっていたこと、また同一セクターへの支援が継続的に行われず、このことが結果的に期待された援助効果の発現を阻害する要因になったのでないかとの反省から、対象セクターに的を絞った長期的な援助を行うという方向性を打ち出している。中期的には30から15程度の対象セクターの絞込み3を検討している。

表4-2-2 ADBの重点分野におけるプロジェクト例

ドナー アジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)
現行の国別援助計画 Country Assistance Plan(2001-2003)
援助の上位目標 貧困削減
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
農業・農村開発、基礎保健・栄養、基礎教育、水資源開発、洪水対策、通信、運輸(道路、鉄道)、エネルギー(電力)、都市開発、金融、マイクロクレジット
予算規模 融資:1,680百万ドル(2001-2003の3年間)
テクニカル・アシスタンス:22.45百万ドル(2001-2003の3年間)
セクター別予算配分 農業・自然資源22.6%、エネルギー18.5%、金融・工業7.4%、運輸・通信25.6%、社会インフラ25.9%(2001-2003の融資予算をベースに算出)
プロジェクト例
(実施中または計画)
・Rural development(農業・農村開発)
・Participatory livestock development II(農業)
・Integrated water resources managment in the southwest(水資源開発)
・District tows water supply and sanitation(上水・衛生)
・Rural electrification(電力・エネルギー)
・Primary education sector III(教育)
・Secodary education teacher training(教育)
・Landadministration reform(社会インフラ)
・Road network improvement and maintenance I(道路)
・Regional rail traffic enhanement program(鉄道)
・SME development and finaning(金融)
・Secondary towns integrated flood II(災害対策)


(3)アメリカ:国際援助庁(USAID)

アメリカは1971年のバングラデシュ国独立当時から支援を開始し、1970年代は食糧援助とインフラ復興を中心に支援し、その後、農業分野、保健・人口分野、農村電化、災害救援などへ支援を拡大してきた。これまでの対バングラデシュ国開発援助の累計額は約4,500百万ドルに上っている。

現行の米国国際援助庁(USAID)の国別援助計画(2000~2005年)では、持続可能な開発を通じた貧困削減を上位目標とし、そのための戦略目標として以下を掲げている。

(1)出生率の削減と家族の健康の向上
(2)農業関連産業(アグリビジネス)および小規模企業の育成
(3)河川および熱帯森林資源管理の向上
(4)エネルギーセクターの構造改革支援と実施機関の能力改善
(5)貧困層に対する食糧保障の改善
(6)民主主義制度の強化

各戦略目標はさらにそれを達成するためのいくつかの下位目標と連動しており、また上位目標、戦略目標、下位目標の各レベルにおいて、目標達成度や業績を計るための指標とターゲットが設けられており、川下である各プロジェクトやプログラムの実施活動から、川上である上位目標に至るまでの各レベル間の関連性や整合性を論理的に整理した援助計画の枠組みを構築している。

またUSAIDはNGOや市民組織とのパートナーシップを重要視しており、保健、家族計画、食糧支援、貧困層の支援、女性のエンパワメント、選挙制度の改善など、幅広い分野でNGOと連携・協力しながら援助活動を進めている。

表4-2-3 USAIDの重点分野におけるプロジェクト例

ドナー 米国国際援助庁
(United States Agency for Interational Development: USAID)
現行の国別援助計画 Strategic Plan(2000-2005)
援助の上位目標 持続可能な開発を通じた貧困削減
(目標:貧困削減25%、2005-2010のGDP成長 年率7%)
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
保健・医療・人口(家族計画、児童保健)、市場経済支援、エネルギー、食糧保障、農業、民主化支援、人道援助、環境保護
予算規模 102百万ドル(2002年)
セクター別予算配分 保健・人口70%、市場経済支援10%、環境3%、エネルギー5%、食糧保障・人道援助3%、民主化支援9%(2001年度実行額をベースに算出)
プロジェクト例
(実施中または計画)
・Fertility reduction and fammily health improvement(保健・人口)
・Enhaned househould income and food-based nutrition(栄養)
・Growth of agribusiness and small business(農業)
・Improved management of open water and tropical forest resources(環境)
・Improved performance of energy sector(電力・エネルギー)
・Improved food security for vulnerable groups(食糧保障)
・Broadened participation in local decision-making and ore equitable justice, especially for women(民主化・ジェンダー)


(4)イギリス:国際開発省(DfID)

イギリスはバングラデシュ国の旧宗主国であり、バングラデシュ国はインドに次ぐ主要援助対象国となっている。現行の英国国際開発省(DfID)の国別援助計画(1998~2002年)では、貧困削減を長期目標に据え、そのための重点戦略として以下を掲げている。

(1)貧困層の生活向上および基本的社会サービスの改善
(2)貧困層に配慮した持続可能な成長
(3)グッド・ガバナンスと制度改革
(4)人権への意識向上
(5)社会における女性の地位向上
(6)DfIDおよびバングラデシュ政府間の開発援助政策の整合性の維持

またNGOおよび他ドナーとのパートナーシップにも非常に積極的であり、対バングラデシュ国開発援助資金の多くの部分はNGOと他ドナーとの連携・協調による援助案件へ充てられている。DfIDは世銀と同様にセクターワイド・アプローチを強く推進する立場を取っている。またNGOの能力強化にも取組んでいる。

表4-2-4 DfIDの重点分野におけるプロジェクト例

ドナー 英国国際開発省
(Department for International Development: DfID)
現行の国別援助計画 Country Strategy Papaer (1998-2002)
援助の上位目標 貧困削減
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
持続可能な成長、人権、女性の地位向上、制度改革、グッド・ガバナンス、
予算規模 97百万ポンド(2000/01年)、93百万ポンド(2001/02年)
セクター別予算配分 教育9.7%、保健・人口13.9%、環境33.3%、インフラ(道路・橋梁)11.8%、上水・衛生7.5%、エネルギー7.5%、小企業・マイクロクレジット5.3%、グッド・ガバナンス2.1%、その他8.6%(2001年度予算額をベースに算出)
プロジェクト例
(実施中または計画)
・Comunity based fisheries management(漁業)
・Reproductive healt: SM contraceptive marie stopes(保健・人口)
・Polio eradication(保健・医療)
・Continuing education and post literacy(教育)
・National transport policy(道路)
・Rights and governmence fund(ガバナンス・人権)
・Disaster management(災害対策)
・Enhancing position on women(ジェンダー)
・Southwest and northwest natural resources management program(環境)
・Private sector development(民間部門支援)
・Parliamentaty committees(制度改革)
・RIBEC2000- public expenditure reform(制度改革)
・CARE/INCOME III- microfinance(マイクロファイナンス)


(5)国連開発計画(UNDP)

国連開発計画(UNDP)は1973年よりバングラデシュ国への援助を開始し、独立直後の緊急支援や国土復興から始まり、その後援助対象を拡大していった。1996年にはバングラデシュ国政府との間で対バングラデシュ国援助方針であるCountry Cooperative Framework(CCF)が合意され、CCF(1996-2000)に基づいて貧困削減を援助上位目標と定め、(1)グッド・ガバナンスのための行政管理、(2)女性の地位向上、(3)環境・自然資源の保護、(4)食糧自給、(5)インフォーマルセクターでの雇用創出などの分野に重点を置いた援助を行ってきた。現在、次期CCF(2001-2005)の最終承認手続きがバングラデシュ国政府およびUNDPの間で進行中である。CCF(2001-2005)では、引き続き貧困削減を上位目標とし、前期CCFとほぼ同様の以下の重点分野への協力を行う予定である。

(1) 地方分権の推進と地方行政および市民組織の能力開発を通じたコミュニティのエンパワメント
(2) 政府の行政管理能力の強化と行政改革によるガバナンスの改善
(3) 持続可能な環境・自然資源管理
(4) 食糧自給
(5) 女性の地位向上
(6) その他のHIV/AIDS予防および災害管理


特にUNDPは国連機関という立場から、近年はガバナンス改善のための支援を重点的に行っており、パイロット事業を通じてガバナンス改善のためのモデル造りなどに取組んでいる。他ドナーおよびNGOとのパートナーシップにも積極的に進める立場である。

表4-2-5 UNDPの重点分野におけるプロジェクト例

ドナー 国連開発計画
(United Nations Development Programme: UNDP)
現行の国別援助計画 Coutry Cooperation Framework(1996-2000)
援助の上位目標 貧困削減
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
グッド・ガバナンスのための行政管理、女性の地位向上、環境・自然資源の保護、食糧自給、インフォーマルセクターでの雇用創出
予算規模 103百万ドル(2001-2005)
セクター別予算配分 不明
プロジェクト例
(実施中または計画)
・Rural youth development(教育)
・Education management information system(教育)
・Safe blood transfusion(保健・医療)
・Sustainable environment program(環境)
・Multisectoral AIDS prevention program(保健・医療)
・Community empowerment for rural poverty alleviation(コミュニティ・エンパワメント)
・Strengthening in the electoral process(ガバナンス)


(6)国連児童基金(UNICEF)

国連児童基金(UNICEF)の国別援助計画(1996~2000)の目標は、保健、教育、安全な飲み水、衛生、保護および児童の開発・育成などの分野への支援を通じた子供の権利の実現と女性の能力開発およびエンパワメントの達成であった。次期国別援助計画(2001~2005)でも引き続き、子供の権利の実現と女性の能力開発およびエンパワメントを開発目標に定め、その実現のために以下の優先施策を進めるとしている。

(1) 保健、栄養、安全な飲み水、衛生などの分野への支援を行い、子供の生存を助ける
(2) 幼児教育や基礎教育、および子供に教育を受けさせる家庭環境の整備に対する支援を行い、子供の人間開発を促進する
(3) 出生および婚姻登録制度の確立、児童および女性を搾取、差別、暴力から守るための環境整備、女子の結婚年齢を上げ、成人女性の幅広い選択権を保障することなどを行い、子供および女性の保護を促進する
(4) 子供の権利条約および女性差別撤廃条約の実施状況のモニタリング、政府予算を含むバングラデシュ国国家政策の調査、子供と女性の権利を守るための活動計画造りや実施を行う行政機関および関係者の能力強化、などを行い子供と女性の権利の保護を促進する


協力分野としては保健・栄養、上水・衛生(安全な飲み水)、教育、災害対策が中心である。またUNICEFは他の国連機関を初め、他ドナー、NGOおよび地方政府との連携協調にも積極的に取組んでいる。

表4-2-6 UNICEFの重点分野におけるプロジェクト例

ドナー 国連児童基金
(United Nations Children's Fund: UNICEF)
現行の国別援助計画 Country Programe (1966-2000)
援助の上位目標 子供の権利の実現と女性の能力開発およびエンパワメント
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
保健・人口、衛生、栄養、教育、水資源開発・上水(安全な飲み水)、
予算規模 202百万ドル(2001-2005の5年間)
セクター別予算配分 保健・医療・栄養23.9%、上水・衛生30.6%、子供の人間開発・教育28.3%、子供と女性の保護5.7%、人権6.8%、その他4.7%(2001-2005予算をベースに算出)
プロジェクト例
(実施中または計画)
・IDEAL(Intensive District Approach to Education for All)(教育)
・Strengthning EPI(Expanded Program of Immunization)(保健・医療)
・Polio Eradication(保健・医療)
・Emergency obstetric care(母子保健)
・IDD(Iodine Deficiency Disorders)control(栄養)
・Water and environmental sanitation(arsenic mitigation)(安全な飲み水)


(7)欧州連合(EU)

欧州連合(EU)は国際機関としては世銀、ADBに次ぐ3番目の援助実績を持つ多国間援助ドナーである。EUの対バングラデシュ国援助は1976年から開始され、1970年代は食糧援助が中心であったが、1980年代には幾つかの大規模灌漑、および農村開発などの開発プロジェクトを手がけた。1990年代に入って援助戦略の改定と援助規模の拡大が進み、貧困撲滅、食糧保障、NGOとのパートナーシップに重点分野が移行し、さらに保健、教育、人権などの分野へも支援対象が拡大された。

現行のEUの国別援助計画(1999~2001)では、貧困削減を目標とし、(1)貧困層の所得向上、(2)保健、(3)初等教育、(4)職業訓練、(5)ジェンダーおよび人権、(6)チッタゴン兵陵地帯の和平促進、(7)ガバナンスの分野を中心に支援を行うとしている。また他ドナーとの協調融資、NGOの活用などにも重点を置いている。しかしながら上記重点戦略は野心的であったため、例えば職業訓練、チッタゴン丘陵地帯の和平問題、人権問題などは充分に支援することが出来なかった。この反省を踏まえて、EUでは援助計画の見直しを現在進めており、次期援助計画(2002~2006)では、EUの比較優位を考慮した支援セクターの絞込みを行い、またEU加盟ドナーとの連携・協調の強化の方針を打ち出している。

次期援助計画では以下を優先施策として実施する予定である。

(1) 保健・人口・栄養、教育、食糧保障および農村開発、雇用創出への支援を通じたバングラデシュ国の人間開発指標の改善
(2) 輸出振興および輸出多角化、知的所有権、統一規格と品質管理、金融制度の近代化などへの支援を通じた貿易および経済協力の強化
(3) その他として、チッタゴン丘陵地帯の和平促進、民主化と人権、災害対策など EUではいわゆる開発援助型の支援だけではなく、バングラデシュ国とEU加盟国との貿易および経済・商業関係の強化とそのための環境整備にも積極的に取り組んでいる。今後、EUはEU加盟ドナーとの役割分担を進め、EUは政策支援、ガバナンス、人権問題など二国間での取扱いがデリケートな政策・政治的な問題により軸足を移した協力を行う方向性を示している。


表4-2-7 EUの重点分野におけるプロジェクト例

ドナー 欧州連合(European Union: EU)
現行の国別援助計画 Country Strategy Paper(1999-2001)
援助の上位目標 貧困削減
重点分野
(セクター横断的な重点分野・課題を含む)
貧困層の所得向上、保健医療、初等教育、貧困層および女性のエンパワメント、ガバナンスと制度改革
予算規模 560百万ユーロ(約630百万ドル)(2002-2006の5年間)※未承認
セクター別予算配分 保健・人口・栄養21.4%、教育22.3%、食糧保障および農村開発1.8%、貿易・経済協力8.8%、チッタゴン丘陵地帯和平10.7%、民主および人権1.1%、NGO協調融資5.4%、その他(人道援助、災害対策等)7.1%(2003-2006の予算をベースに算出)
プロジェクト例
(実施中または計画)
・Health and population sector program(保健)
・Contraceptive supply(保健)
・PROMOTE(教育)
・BRAC NFPE(教育)
・Coastal embankment rehabilitation project(水資源)
・Empowering the street children(エンパワメント)
・Socio-economic political empowerment of women in Bangladesh(エンパワメント)
・PROSHIKA social forestry(林業)
・CARE NOPEST / CARE LIFE(農業・食糧保障)
・Food security through sustainable income uplift and poverty eradication(農業・食糧保障)
・Emergency project for flood and post-flood relief(人道援助)





2 PAPRのなかで設定された中期目標(2005年までに達成)の主なものは、(1)貧困ライン以下の人口の25%削減、(2)初等教育就学率の50%削減、(3)出産時における妊産婦死亡率の35%削減、(4)乳幼児死亡率の30%削減、(5)栄養不良児の20%削減、(6)リプロダクティブ・ヘルス・サービスを現在受けていない女性の数を50%削減などである。一方、長期目標(2010年までに達成)としては、(1)貧困ライン以下の人口の35%削減、(2)初等教育修了率の100%達成、(3)出産時における妊産婦死亡率の75%削減、(4)乳幼児死亡率の40%削減、(5)全ての出産可能年齢女性がリプロダクティブ・ヘルス・サービを受けること、などが挙げられている。

3 支援セクター絞込みの条件としては、(1)政策・制度改革の手順が示されそれに対してバングラデシュ国政府の強いコミットメントがあること、(2)ADBが当該セクターで主導的役割が果たせること、(3)ADBが当該セクターに比較優位があること、(4)他ドナーとの明確な役割分担があること、(5)ADBが民間融資や協調融資の触媒の役割を果たすこと、などが挙げられている。




このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る